伊勢の伝統薬「萬金丹」の歴史

江戸時代、お伊勢参りの土産物として広まった「萬金丹」

「越中富山の反魂丹、鼻くそ丸めて萬金丹

という俗謡でも親しまれてきた萬金丹は、伊勢白粉(いせおしろい)とともに伊勢路の土産物として全国に広まりました。

お伊勢参りは江戸時代に庶民の間に広がり、村や町ごとに積立金で年一回代参を送り出す〝伊勢講〟といった風習が定着。

代参人は、荷物にならずしかも実益ある薬ということで、 お参りの土産物として萬金丹を選び、送り出した人々からありがたいと喜ばれました。

また武士が腰に下げていた印籠の中にも萬金丹が入っており、懐中薬の代表でもありました。

その人気から、伊勢の萬金丹には多くの偽物が出現し、ひと頃は30種類もの萬金丹が出回っているほどでした。

霊薬『萬金丹』朝熊岳の金剛證寺の関係

そのなかでも古い歴史をもつ「野間萬金丹」は、かつて〝霊方萬金丹〟として知られていました。野間家の言い伝えによると、祖・野間宗祐が室町時代の応永年間(1394~1427)に故郷・尾張国野間から仏地禅師に随行して朝熊岳の金剛證寺に移住し、その信仰の中で秘方を授けられ、創薬したのが萬金丹であったといわれています。

萬金丹札

金剛證寺は伊勢神宮の鬼門を護る寺とされ、「お伊勢に参らば朝熊をかけよ、朝熊かけねば片参り」と伊勢音頭にも歌われたことでも知られており、金剛證寺で祈祷を終えた後、金剛證寺参詣の人々が多く萬金丹を買い求めたといわれています。

万病に効く旅の常備薬『萬金丹』

萬金丹は江戸時代、旅の道中に常備する万能薬とされていましたが、主に胃腸の不調を改善するもので、その効能は食欲不振、消化不良、胃弱、飲みすぎ、食べすぎ、胸やけ、胃もたれ、はきけ(胃のむかつき、二日酔い、悪酔、悪心)などとなっており、また配合されている生薬には、下痢、腹痛にも効果があり、その用途は幅広いものでした。

昔ながらの伝統薬が、新しいカタチで注目を集める日も近いかもしれません。